April 12, 2011

少女素数の話


著:長月みそか

双子のおんなのこ(中学生)の日常を描いた漫画。現在二巻まで発売されている。一巻のあとがきによると、この作品のテーマは「少女性の追求」らしい。まさにその通りの内容である。このへんに関しては俺が説明するのは野暮だろう。読めば必ず納得できるに違いないからだ。それくらい、少女の魅力を描き出すことに特化されたマンガなのだ。ストーリー展開はコメディタッチで、少女性をテーマとした漫画によくあるような重苦しい展開や残酷な描写はない。普通の、なんてことない日常にある少しだけドラマチックな一面を切り取ったかのような物語だ。単純に面白いの面白くないので言えば、滅茶苦茶面白い。俺はこういう、(ギャグでない)コメディ的な笑いにすごく弱いのだ。ボケやツッコミではなく、ただ起こるだけの「面白い出来事」が好きなのだと思う。もちろんこの漫画の面白さは、それだけではないのだ。

この漫画は全編グレースケールという方法で「塗られて」いる。ライトノベルの挿絵なんかではよく見るけど、漫画ではあまり見かけないやりかただ。カラーイラストを白黒にしたような質感で、トーン処理とは全く違った雰囲気が出ている。特にこの漫画ではグラデーションを多用しつつ背景もあますところなく塗られているので、全てのページがまるで一枚絵のようだ。そんなに塗りまくったらごちゃごちゃしてて読みづらいんじゃないか、と思いきや全くそんなことはないのだ。確かにこの作品、背景はかなり細かく描き込まれているし、どこもかしこもグレースケールの塗りが入っている。なので一コマ一コマの密度は、相当濃い。しかし、人物も背景もグレースケールという全く同じ方法で塗られているのでトーンで質感を出したときのような強調がなされず、全体がフラットな絵になっている(しいて言えば塗られていないフキダシだけが浮いている)。だから極端な話、セリフとキャラクターの表情だけでも「読める」。背景は何が描いてあるか認識するだけで注視しなくてもいい。漫画を読むのに必要最低限の部位を見ていくだけで話を追うことができるのだ。こんな風に読みやすさを実現している漫画を、俺は他に知らない。

それから、キャラクターの表情。これもすごい。この漫画の絵柄、というかキャラクターとその表情はシワの立体感や筋肉の動きを忠実に描いたようなリアル指向ではなく、記号的にかわいらしくデフォルメされた、いわゆる「萌え絵」だ。このデフォルメされた表情へのこだわりが半端ではない。例えば「歯」。男性キャラにはしばしば描かれるが、女性キャラにはめったに描かれない。どういうときに描かれるかというと、怒っているときや驚いているときだけだ。こうしたことから、この作品において歯は「あるから描く」のではなく「表情として必要だから描く」ものとして扱われている。こういう細部への情熱がこの漫画を魅力的なものにしているに違いない。
ちなみに二巻の巻頭のカラーページは、あんずとすみれという主人公の双子の少女がチョコレートをくわえている絵だ。すみれは歯を見せずチョコを食んでいて、あんずは歯を見せてチョコを噛んでいる。今のところ、作中ですみれが歯を見せるシーンはあるけど、あんずが歯を見せているシーンは(たぶん)ない。おそらくこの一枚絵では、表情ではなく噛むという行為を表現するために歯を描くことで、二人の性格の違いを表現しているのだと思う。

他にもいいところはたくさんある。水の描き方がすごいとか、おとなのおねえさんがかわいいだとか、見所を全て紹介しきるにはまだまだほど遠い。俺が見つけていない魅力的な要素も大量にあるだろう。とりあえず最後に一言だけ。この漫画、少女素数はすごく面白い。