超鉄大帝テスラの話
ロボットまんが。全二巻(上・下巻)。原作:大塚英志・作画:大野安之。
雰囲気はOVA版「ジャイアントロボ」のテンションと世界観を思い起こさせるような、近未来都市を勢いだけで突っ走るあの感じ。ただし、登場人物や設定が一種異様な雰囲気を放っているのがこの「超鉄大帝テスラ」だ。
簡単にあらすじを説明すると、旧満州でニコラ・テスラ博士の開発した満鉄の車両である「あじあ号『大帝』<ヴェリキー>」が巨大ロボットに変形し、満州を支配しようとする「帝国」という邪悪なエネルギーのようなものに取り憑かれてしまったエヂソン博士が創り出したロボットと戦い、ついには革命政府を樹立し「帝国」に宣戦布告する、というような話だ。
OVA版ジャイアントロボは横山光輝のキャラクターをスターシステム的に扱い、お祭り騒ぎのような大変魅力ある世界観を確立している。一方この超鉄大帝テスラは、作画を担当した大野安之のキャラクターをスターシステム的に使っているが、歴史上の人物をモデルにしたキャラクターたちもわんさか登場する。
『大帝』を操縦するのは、実在の発明家でマッドサイエンティストとも呼ばれるニコラ・テスラ博士の孫、スカーレット・テスラとなぜか彼女にそっくりな少女、一大寺緋色だ。二人はとある出生の秘密を持っている。キャラクターの造形は大野安之の作品「超電寺学園きらきら」のキャラクターからとられている。
凄まじいのは彼女たちをとりまく、実在の人物をモデルにした脇役たちである。
彼女たちが通う学園は、実は反政府組織である。その正体を見破られてから生徒・教師は全員『大帝』に乗り込み、列車を拠点とするする臨時革命政府として動き出す。実質的な組織のトップを務めるのは「張」校長。もちろん元ネタは旧満州で権力を握っていたが関東軍に爆殺された軍人・張作霖だ。参謀は学園で先生をしていた出口王仁三郎。もちろん宗教家の出口王仁三郎がモデルだ。革命政府大統領は愛新覚羅薄覚。清国のラストエンペラー・愛新覚羅溥儀がモデルだが、こちらはやたらと美形になっている。
敵は謎の力「帝国」とそれに支配されたエヂソン博士、満州の支配者リラダン卿(エジソンがアンドロイドを創り出す物語「未来のイブ」の作者が元ネタ、実際は男性)と、彼女に従う六人の人造人間<アンドレーデ>。そしていかにも子悪党といった雰囲気の高官「甘粕」(たぶん甘粕正彦が元)。
このように、明らかにうさんくさい連中がわんさか登場するのもこの作品の特徴だ。なんともニッチなところを突いてきたキャラクターたちが所狭しと暴れ回る。かわいげのある主人公たちとうさんくさい大人たちが満州でロボットに乗り込みドンパチ。興奮せざるを得ない。単に歴史上の要素を取り出しただけではこうはいかないだろう。この作品はありえたかもしれない別の歴史を想起させる歴史の裏や影の部分を彩るさまざまな要素をふんだんにちりばめた、伝奇的ハイテンションロボットまんがなのである。
忘れてはいけないのが、謎の古代兵器の鍵を握っている男。登場シーンがのインパクトが凄まじくて忘れられない。ハバロフスクでリラダン卿の<アンドレーデ>が男を見つけ、話しかける。「誰…? あなた」男の顔がアップになり、その全貌が明らかとなる。かなりの美形だ。同じコマで男が名乗るのは「大陸浪人… 北一輝…」誰だお前。あまりの美化に声を出して笑ってしまった。「片目の魔王」と呼ばれ恐れられた革命思想家が、まさか超がつくほどのイケメンとしてマンガに描かれるなんて当時は思いもよらなかっただろう。どいつもこいつもやたらと過剰なのが、この超鉄大帝テスラなのだ。
もちろん見所はキャラクターだけではない。どのコマも緻密に、かつ迫力のあるタッチで書き込まれており、その圧倒的な雰囲気に飲まれてしまう。メカのデザインがどれをとっても格好良く、細かく描き混まれた機械や都市が物語のスケールをそのまま伝えてくる。たまに滅茶苦茶かっこいい構図があったりして、それもまた魅力だ(エヂソンがロボットと一体化するシーンとか、やたらインパクトがあった)。全体的にとにかくすごい気迫が漂っているので、「熱い」ものが好きな方はぜひ。
あまりに大きいそのスケールは、最後のコマに書かれている文字を読めば一発で理解できる。「未完」。そう、未完なのだ。なんつうか、もう、納得するしかない。大人の世界はいろいろあるのだろう。しかし話は一区切りついているので、安心して読んで大丈夫だ。
巨大ロボットと伝奇の交錯するところに、この物語はある。そのスケールとディテールを味わってみてほしい。