低俗霊DAYDREAMの話
口寄せ屋(イタコ)兼女王様の主人公・崔樹深小姫(さいきみさき)が口寄せをしたり温泉に行ったりする話。これより前に描かれた、同じく口寄せ屋が主人公である「低俗霊狩り」の流れをくむ作品で、基本的には霊に関するトラブルが起こり、それを主人公が解決していくという物語だ。
この作品が幽霊ちょっといい話にとどまらないのは、とても猥雑で「俗っぽい」話だからだ。作者の奥瀬サキという人は、ずっとそういう俗っぽさを描き続けてきている。エロスとバイオレンス、どちらもいいものだ。もちろんヤクザも出てくる。
また、現代というか時代を象徴するものが登場するのも特徴の一つだ。一昔前の作品ならブルセラやデートクラブが出てくるし、ちょっと前に描かれたこの作品にはネット心中が重要な要素として登場する。
それから伝奇も得意技だ。「火焔魔人」は伝奇バイオレンスの王道を往く作品だし、「コックリさんが通る」「ドロねこ9」は蠱族という動物に変身できる異形の力を持った者たちが登場する「血」と「業」の物語だ。ただしそれらの作品に「歴史」は登場しない。そもそもそれは必要とされない。なぜなら、「低俗霊DAYDREAM」「低俗霊狩り」もそうだが、それらは個人を描く物語だからだ。
(「夜刀の神つかい」は……まだ読んでいない)
「低俗霊DAYDREAM」の登場人物は誰もが個人的な動機で動く。現代的だ。舞台は都会だが、いくら文明が発達しようとも幽霊は現れる。たぶんそれは幽霊がオカルトの中で最も個人的な存在だからだ。社会と結びつかないオカルトは少ない。そういったものたちは皆文明の発達によって駆逐されてしまったが、世の中の動向に関わらず存在できる幽霊たちにとって、むしろ都会というのは住みやすい場所なのではないだろうか。目撃してくれる人は大勢いるし、いかにも出そう、といった場所も都市の変化によってどんどん増えていく。ホテルやビル、学校、マンションは人工の増加に比例して増えていき、そこは格好の幽霊の住み家となる。
しかしこの物語において、幽霊たちへの対策は未だに行政として行われる。大まかなパターンとしては、都の生活対策課に持ち込まれた相談を、都から依頼されて主人公が請け負うという形だ。そこらへんが伝奇っぽくてロマンを感じる。
もう一つ、伝奇っぽくて好きなところがある。それは「業」だ。「コックリさんが通る」では、主人公たちの背負った蠱族という立場(血)が業として描かれたが、この作品ではもっと現代的なものに替わっている。「性」だ。セクシュアリティというのは現代において、誰もが持ちうる業として存在している。血、出自というのは改変不可能だからこそ重荷となりうる可能性を持っている。それが業だ。多くの伝奇は業を血や出自という要素で描いてきたが、この作品では性がその位置を占めている。物語の舞台が現代の都会になることで、かつて血という歯車だったものが性という歯車に置き換えられ、きれいに噛み合っている。この物語は幽霊譚でありながら、時に下世話で、時に猥雑で、時に暴力的な性の物語だ。これは伝奇と個人の物語をずっと描いてきた奥瀬サキだからこそ産み出せたものに違いない。