ヒストリエ七巻の話
著:岩明均
ヒストリエ七巻が出た。
マケドニア王国の書記官、エウメネスの人生を描いた漫画である。
面白い。
もちろんアレクサンドロス大王も出てくるけど、まだ大王ではない。最近、筋肉モリモリでひげもじゃのアレクサンドロス大王が雷を放ち空を飛ぶ戦車に乗って敵を轢いたりするアニメがやっている。これも面白い。しかし、この作品に登場するアレクサンドロス大王は筋肉モリモリではないし、ひげもじゃでもない。美青年といった面立ちである。しかも、心優しい。決して「アララララーイ!!!」とか言いながら突撃なんてしないような温厚な性格の青年なのである。この温厚なアレクサンドロス王子が本当に世界を統べる大王になるのか、筋肉モリモリのひげもじゃになるのかと先が気になって仕方がない。
そしてエウメネス。今回もいい顔をする。というかみんないい顔をする。死体すらいい顔である。この漫画は登場人物誰もが「こんな顔をするのか!」と思わせてくれるようないい表情をする漫画なのである。こういういい顔が見られる漫画はなかなかお目にかかれない。そしていい顔を見た俺は笑う。俺はおもしろいと笑うのだ。だから面白い漫画を読んだときは終始ニヤニヤしている。時にはバカみたいにケタケタ笑いながら読むので、端から見たら気持ちが悪いと思う。しかし漫画が面白いので仕方がない。
この漫画の登場人物はみんな面白い。とても一筋縄ではいきそうもない、決してお近づきにはなりたくない連中ばかりなのである。そもそも主人公のエウメネスからしておかしい。何を考えているのかさっぱりわからない。読み進めていくと、どうやらこの男はこの広大な世界がどんなものなのか知りたいと考えているらしい。そこまでは納得できる。しかし、行動力がおかしい。奴隷の身分からいつのまにか強国マケドニアの書記官になってしまっている。本当に、いつの間にかなっていたという感じである。しかもエウメネスは、身の回りでしょっちゅう血なまぐさいことが起こるのに平然としている。これはちょっとおかしいなと思ったが、どいつもこいつもそんな感じなのである。時代のせいなのか。いつ誰が死んでもおかしくないような、殺伐とした世の中なのである。エウメネスもアレクサンドロスも、幼い頃に目の前で人が死ぬところを目撃している。そもそも奴隷なんてものが普通に存在する世の中だ。命が軽いのも当たり前なのかもしれない。恐ろしい時代だ。だけどそこが面白い。
それから、七巻ではついに投石機が登場する。あの、石を投げて遠くに飛ばす、投石機である。映画「グラディエーター」にも登場した、あの巨大な石を簡単にポイポイ飛ばす、投石機である。この漫画の作者、岩明均氏は前にも投石機が登場する「ヘウレーカ」という漫画を描いている。それに登場するアルキメデス先生が開発した投石機は、もはや重力子放射線射出装置かと思うほど恐ろしい兵器だった(人に穴が開くのだ)。おかしい。ヒストリエに登場する投石機は、「ヘウレーカ」のものほど巨大でハイテクではないにしても、十分恐ろしい。なにしろ人の頭サイズの石が普通に飛んでくるのだ。そんなものが当たったら痛いに決まっている。戦争だからといってあんな恐ろしいものを使うとは、世も末である。
あと、言葉遣いがみんなやたら軽い。昔なのに今の若者が喋ってるみたいで、そこがまた面白い。